幌延⇒南幌延_徒歩102分_長い午後の影

※この記録はAIが自動生成した徒歩旅です。

宗谷本線・幌延駅。
その朝、私は静かなホームに降り立った。
六月の北海道は、まだ肌寒い。
空は薄曇りで、陽射しは柔らかいベールに包まれている。
駅舎の小さな窓から漏れる光が、ほんのりとした温もりを与えてくれる。
改札を抜けて外に出る。
鼻先にひんやりした空気が触れる。
土の匂いに加え、ほんのわずかに草の青さが混じる。
深呼吸をして、歩き始めた。

町はまだ静かだ。
幌延市街の外れ、国道40号線のわき道へと足を向ける。
アスファルトの歩道は湿り気を帯びている。
昨夜の雨の名残だ。
足裏が少しずつ冷えるのを感じる。
靴越しに、朝の路面のざらつき。
それが歩き始めの実感になる。

民家の数は少ない。
畑と牧草地が広がる。
風が渡るたびに、背の高い草が音もなく揺れる。
遠くでカラスが鳴き、少し後に野鳥の声が交ざる。
私は歩調を整え、早過ぎずゆっくり過ぎず、一定のリズムを保つ。
歩くことで、体がじわじわと温まってくる。
手袋が欲しいほどではないが、ポケットに手を入れたくなる冷たさだ。

しばらく歩くと、左手に小さな祠が見えた。
木造の素朴なものだ。
扉は閉じられていて、中はうかがえない。
ふと足を止め、軽く頭を下げる。
旅の無事を祈る習慣はないが、こういう場所に出会うと、自然とそうしたくなる。
祠の脇には名も知らぬ野花が咲いている。
白と黄色の小さな花弁。
しゃがんで匂いを嗅ぐと、ほとんど感じない。
けれど、湿った大地の匂いだけははっきりとしていた。

さらに進む。
自動車はほとんど通らない。
時折、遠くからトラックのエンジン音がかすかに聞こえ、やがて静寂に戻る。
田園の中を、未舗装の道が分かれている箇所がある。
そこに、地元の人と思しき年配の男性が犬を連れて歩いてきた。
おはようございます、と小さな声で挨拶を交わす。
犬は茶色い中型犬。
少し警戒して私に目をやるが、すぐに主人のあとを追う。
男性も特に話しかけては来ない。
互いに、朝の空気を壊さぬような距離感だった。

足元の道は、ややぬかるんだ場所もある。
水たまりを避けて歩く。
ふと足裏に、柔らかい土の感触が伝わる。
北海道の湿った大地は、思ったよりもしっかりしている。
歩くたびに、かすかに靴が沈む感覚がある。
遠くの防風林が、緑の帯となって視界に入る。
風が吹くと、葉のこすれる音がざわざわと耳に心地よい。

時折、線路と並行に歩くことになる。
宗谷本線の線路はまっすぐで、どこまでも伸びているように見える。
列車が近づく気配はない。
レールの上にカラスが一羽とまっていたが、私が近づくと気配を察して舞い上がった。
黒い羽ばたきが空に溶けていく。

中間地点あたりで、畑の向こうにトラクターの姿が見えた。
エンジンの音が、遠くから低く響いてくる。
その音は一定のリズムで、広い空間にゆっくりと消えていく。
作業をしている人の姿は小さく、帽子の下で顔はよく見えない。
こうした営みが変わらずに続いているのだと、ぼんやり思う。

道ばたに自動販売機がひとつあった。
田舎道に突然現れる赤い箱。
ここで小さな休憩をとることにした。
缶コーヒーを買い、手に持つと、缶の温もりが指先にじんわりと伝わる。
プルタブを開ける音が妙に大きく感じる。
小さなベンチに腰を下ろして、ひとくち飲む。
微かな苦みと甘みが口の中に広がる。
遠くでヒバリが鳴いている。
あたりはただ、広い。

再び歩き出す。
コーヒーの温かさが腹の中に残る。
道はゆるやかに曲がり、ふと線路から離れる。
右手に湿地帯が広がっているのが見えた。
幌延町はラムサール条約の登録地も近い。
葦が風にしなり、ところどころに水面がキラリと光る。
近づくと足元がさらに柔らかくなるので、あまり奥へは入らない。

日がだいぶ高くなった。
雲は薄まり、少しずつ青空が広がる。
気温も上がり、冷たかった指先がようやく元に戻る。
上着のチャックを少し開ける。
遠くで牛の鳴き声が聞こえる。
牧場があるのだろう。
匂いも、時おり、草と混じってわずかに牛舎のものがする。

南幌延駅へ近づくにつれ、道はまた舗装路になる。
線路を渡る小さな踏切が現れる。
警報機はなく、手動で開閉するタイプの木の柵が設けられている。
左右をよく見てから線路をまたぐ。
レールは日の光でわずかに光っている。
足元のバラストはごつごつしていて、踏むと固い感触が伝わってくる。

南幌延駅の小さな待合室が見えた。
木造の、簡素な建物。
ベンチがひとつ、時刻表が一枚。
誰もいない。
窓は少し開いていて、冷たい風が入り、床に薄い埃が舞う。
静けさのなか、自動販売機で買った缶コーヒーの空き缶を持て余しながら、ベンチに腰を下ろした。
長い道のりではない。
しかし、歩みを重ねた分だけ、周囲の空気が自分の体に馴染んでいる気がした。

ふと外に出て、駅舎のまわりを歩く。
線路の向こうに、どこまでも広がる草原がある。
風が少し強くなった。
青空が広がる昼前、日射しが顔にあたたかい。
遠くに見える雲の影が、草地をゆっくりと横切っていく。
その動きをぼんやりと眺める。

発車を告げるベルはない。
しばらくして、ひとり旅の終わりを静かに感じた。
幌延から南幌延までの7.6キロ。
北海道の原野を歩く時間は、静かで、確かに自分の足音が残る旅だった。
私は駅のベンチに座り、少しだけ呼吸を整えた。
やがて来る列車の音を、心静かに待った。

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