※この記録はAIが自動生成した徒歩旅です。
咲来駅の小さな待合室を出たのは、午前八時を少し回った頃だった。
木造の駅舎の壁はまだ夜露でしっとりしていて、手を触れると冷んやりする。
六月の北海道は、思ったよりも空気が澄んでいて、少しひんやりしていた。
歩き始めてすぐ、土の匂いと、どこか遠くで牛舎を洗うような微かな匂いが混じった風が頬をなでた。
宗谷線沿いのこの道は、車の通りも少なく、耳に届くのは自分の足音と、遠くを流れる天塩川の水音だけだ。
砂利を踏む足裏には細かな振動が伝わり、時折小石が靴底に当たる。
駅から離れるごとに、線路を渡るキジバトの低い鳴き声が聞こえてきた。
朝の陽光が山並みに隠れて、まだ辺りは淡い青さを残す。
歩いて十五分もすると、道端にいくつかのタンポポが咲いているのが目に入った。
わずかに湿った草の匂い。
立ち止まり、しゃがんでよく見れば、まだ朝露が花に残っている。
指でそっと触ってみると、冷たさとともに細い茎の柔らかさが伝わった。
足元の道は少しぬかるみがあり、踏みしめるたびに土が靴にまとわりつく。
道の先には、時折トラックが行き交う国道が現れる。
けれども、このあたりの交通量は本当にわずか。
トラックが一台通り過ぎるたび、静けさの中に硬いタイヤ音が響き、それがまたすぐに消えていく。
エンジンの匂いは意外とすぐに風に流され、また元の澄んだ空気へと戻る。
途中、小さな用水路を渡る。
橋というより、コンクリート板を渡しただけの簡素なものだ。
流れる水の音が足元から涼しさを呼ぶ。
しゃがみ込んで手を伸ばしてみると、水は驚くほど冷たく、指先が震えるほどだった。
朝の光が水面で反射して、小さな虹色を見せてくれた。
歩き続けると、道の両脇に背の高いヨモギやハンノキが目立ち始める。
陽がだいぶ高くなってきて、額にじんわり汗がにじむが、湿気が少ないせいか不快感はない。
そよ風が吹くたび、葉が擦れる微かな音が聞こえ、そこに時折混じる小鳥のさえずりが心地よい。
途中、農作業に向かうらしい地元の年配男性とすれ違った。
おはようございます、と小さく声をかけると、向こうも軽く頭を下げてくれた。
すれ違いざま、彼の帽子から藁の香りがふわりと漂った。
人の気配がほとんどないこの道で、短い挨拶に妙な安心感があった。
道はやがて、林のトンネルに入る。
日差しが枝葉の隙間からこぼれ落ち、模様のように地面を照らす。
土の道は少し湿っていて、足裏に柔らかな感触が残る。
鳥の声が近くに聞こえ始め、体感温度も少し下がる。
背筋を伸ばして深呼吸すると、針葉樹の青い匂いが肺を満たした。
林を抜けると、視界が開けて天塩川が現れる。
川面は朝の光を反射して、ゆっくりと流れていた。
川沿いの道に出ると、風がやや強くなり、頬に冷たさが戻る。
川の水の匂いは、土の香りと混じってどこか懐かしい。
川岸に腰を下ろしてしばらく休憩した。
リュックから水筒を取り出し、冷たい水で喉を潤す。
この場所では、時間が少し緩やかに流れているように感じた。
再び歩き始めると、天塩川温泉の案内板が見えてきた。
ゆるやかな坂を上がると、道端に野生のラベンダーが少しだけ咲いているのを見つけた。
指先でそっと花を撫でると、かすかな香りが立ち上る。
初夏の陽射しに照らされ、紫色が鮮やかに映えていた。
温泉街の手前には、小さな商店がある。
店先のベンチには地元のご婦人が一人、新聞を読んでいた。
挨拶を交わすと、「温泉はもうすぐよ」とにこやかに教えてくれた。
人の気配と生活の匂いが、旅の終わりを告げてくれるようだった。
最後の坂をゆっくり歩くと、天塩川温泉の建物が見えてきた。
木造の外壁からは、少し湿った温泉の匂いが漂ってくる。
建物の前に立ち、ポケットからハンカチを取り出して汗を拭った。
歩き続けた足は少し熱く、疲労と満足感が入り混じっている。
肌にまとわりつく風は、歩き始めの朝よりも柔らかく、どこか優しかった。
振り返ってみれば、咲来駅から歩いた道は、派手な景色も人混みもなかった。
ただ、自然の気配と、土地のゆるやかな時間に包まれながら、自分の足で進む心地よさだけが静かに残っている。
温泉の湯で体を休める前に、もう一度川の流れを耳にし、深く呼吸をした。
これもまた、北海道の朝の一片なのだと思う。

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