音威子府⇒咲来_徒歩71分_長い午後の影

※この記録はAIが自動生成した徒歩旅です。

音威子府駅を出発したのは、朝の八時半。
初夏の空はまだ低い雲が流れ、遠くの山々を霞ませていた。
駅舎の古びた板張りが、朝露に濡れて黒く光っている。
改札を抜けて外に出ると、ひんやりした空気が顔に触れた。
道北の朝は、六月でも油断できない。
首元に巻いた薄いマフラーの温かさがありがたかった。

駅前の広場には、まだ人気がない。
コンクリートの歩道に、昨日からの雨の名残が小さな水たまりを作っている。
靴の底に、湿った地面の感触が伝わる。
歩き始めると、音威子府川の流れがすぐ近くで響いていた。
水量の多い初夏の川は、時おり小石を弾く音や、岸の葦が揺れるさやさやした音に混じって、どこか頼もしい。

国道40号を北へと歩き出す。
車はまだまばらだ。
遠くから近づいてくるエンジン音が、道の両脇の樹木に反響して、思ったより早く過ぎ去ってゆく。
右手に並ぶ民家の庭からは、味噌や炊きたてのご飯のような、どこか懐かしい匂いが漂ってくる。
窓から湯気が立ちのぼるのを横目に、地元の人々の朝の営みに触れる。

しばらく歩くと、舗道の脇に小さなバス停が現れる。
ベンチの上には、まだ夜露で濡れた新聞が一部置かれていた。
ベンチに腰かけ、すこしだけ足を休める。
湿った木材の匂いが、思いのほか鼻先をくすぐった。
足裏がほんのり冷えている。
リュックの中に入れておいた温かいお茶を少し飲み、息をつく。

再び歩き出すと、国道の左右に広がる畑が見えてきた。
何を育てているのかはよく分からなかったが、若い葉が規則正しく並んでいる。
土からの匂い、微かに堆肥の匂いも混じる。
足元のアスファルトは次第に乾き、歩きやすくなってきた。
ときどき、路肩に咲く小さな花に目をやる。
名も知らぬ白い花が、朝日を受けて揺れている。

しばらくして、向こうから自転車に乗った少年がやってきた。
濃紺の制服に赤いランドセル。
おそらく地元の小学生だろう。
こちらに会釈をして、ペダルを漕ぎながら通りすぎていった。
自転車のタイヤが砂利をはじく音が、しばらく耳に残った。

歩を進めるごとに、朝の寒さはやわらぎ、ゆるやかに気温が上がっていく。
日差しが差してきた。
頬や首筋に光があたり、ほんのり熱を感じる。
ふと、田んぼの中に白鷺が一羽、たたずんでいるのを見つけた。
そっと立ち止まり、しばらく眺める。
静けさのなかで、鳥がじっと水面を見つめている。
その白さが、緑濃い水田に映えていた。

川沿いの道に入ると、風が少し強くなる。
音威子府川の水面が、きらきらと光を反射する。
風に乗って、湿った草の匂いが流れてきた。
足元の道は、土がむき出しになっているところもある。
コンクリートが切れ、柔らかな土の感触に変わった。
靴底を通して、ほんのり温かい土のぬくもりが伝わる。

途中、小さな橋を渡る。
下を流れる水の音が、すぐ足元でざわめいている。
橋のたもとに猫が一匹、じっとこちらを見ていた。
黒と白の模様が、どこかくたびれた風情を醸し出している。
声をかけると、ひと鳴きして姿を消した。

道端に腰かけ、持ってきたパンをかじる。
かすかにバターの香りが立つ。
食事をとりながら、ぼんやりと空を見上げる。
雲はもうすっかり高くなり、青空が広がっている。
遠くでカラスとトビが鳴き交わす。
蝉の声はまだ聞こえない。
北海道の夏は、もう少し先なのだろう。

歩きつづけるうち、国道から少しだけ離れた脇道に入った。
道はやや細くなり、両側に葦やヨシが生い茂る。
風が吹くたび、ざわざわと音を立てる。
足元には、ふかふかの落ち葉や小枝が混じっている。
歩くたび、湿った音が響く。
時折、野鳥の羽ばたきが低く聞こえる。

やがて前方に咲来の駅舎の屋根が、小さく見えてきた。
線路を渡ると、かすかに金属の匂いが鼻をかすめる。
午前十時前、予定より少し早く咲来駅に到着した。
無人駅の静けさは、音威子府よりもさらに深い。
ベンチに腰を下ろし、冷えた足をさすりながら深呼吸をする。
歩き通した足裏には、確かな疲労感と心地よい充実が残る。

遠くから、川の流れがずっと聞こえている。
人の気配の少ない静かな朝。
歩いてきた道のりを思い返し、しばし目を閉じた。
空気は澄み、耳の奥に、北海道の夏の始まりを告げるような風の音が残った。

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