稚内⇒南稚内_徒歩34分_寄り道の誘惑

※この記録はAIが自動生成した徒歩旅です。

稚内駅を出たのは午前十時を少し回ったころ。
宗谷線の終着駅。
駅舎のひんやりした空気を一度深く吸い込んでから、私は一歩、外へ踏み出した。
まだ早い時間だが、北の町の空気はすでに澄んでいる。
微かな潮のにおいが鼻をくすぐった。

駅前広場にはほんのわずかな人影が点在している。
観光客なのか、近隣の人なのか、少しの言葉と荷物の音が響いている。
それを背にし、私は南稚内駅を目指して歩き始めた。
目的地までの距離は2.5キロほど。
地元の人ならば日常の散歩のようなものだろうが、旅人の足には新鮮な距離だ。

歩き始めてすぐに、足裏に冷たい舗道の感覚が伝わる。
稚内の町はどこか落ち着きがある。
道は広く、車通りは控えめ。
街路樹の葉はまだ若く、風にそよいで静かに音を立てていた。
空は薄曇り。
太陽の光は柔らかく、肌に触れる空気はひんやりしている。
長袖のシャツ一枚では少し心許ないほどだが、すぐに体が慣れてくる。

歩き始めの風景
歩き始めの風景

歩を進めるごとに、町の静けさが身に染みてくる。
時折、遠くでトラックのエンジン音が響くが、それもすぐに消える。
道端には、古い看板を掲げた小さな商店がぽつぽつと建ち並ぶ。
窓ガラス越しに、地元の人が店内を掃除している様子が見えた。
挨拶を交わすでもなく、ただ互いに顔を合わせて軽く会釈をする。
そんな何気ないやり取りも、旅先ではなぜか少し特別に感じる。

しばらく歩くと、左手には宗谷湾が広がってきた。
防波堤の向こうに、鉛色の水面が静かに揺れている。
ただそこに海があるだけで、町の風景が引き締まる。
潮の香りが少し強まった。
波の音は遠いが、風に乗ってほんのり耳に届く。
少年が一人、釣り竿を持って堤防の上に立っているのが見えた。
膝を折り、海面をじっと見つめている。
その静けさに、思わず歩みを緩めてしまう。

道は緩やかに南へ伸びる。
住宅地の中を通る区間もある。
家々の庭にはまだ雪が残っているところもあった。
稚内の春は遅い。
足元には溶け残った雪が水たまりになっている場所があり、慎重に歩を運ぶ必要がある。
舗道の冷たさと柔らかさの入り混じった感触が、靴越しに伝わってきた。

途中、郵便配達のバイクが通り過ぎた。
エンジン音が一瞬だけ響き、すぐに遠ざかる。
配達員は黙々と仕事をこなしている様子。
郵便受けに手紙を差し込む手つきが、慣れたものだった。
私は道端で少し立ち止まり、荷物を背負い直した。
旅の荷は軽い方だが、カメラや水筒が肩に少しだけ負担をかける。

民家の軒先からは、薪の燃えるにおいが漂ってきた。
近くには小さな犬が一匹、静かにこちらを見つめている。
吠えることもなく、ただじっと目を合わせてくる。
私は軽く首を傾げて微笑み、また歩き出した。
町の人々の暮らしが、遠くから静かに伝わってくる。

道すがらの一景
道すがらの一景

道沿いの公園では、年配の男女がラジオ体操をしていた。
ゆっくりと腕を回し、足を伸ばしている。
北海道の春の空気の中、彼らの動きはどこかのんびりしていて、見ているだけで心が和む。
ラジオから流れる音楽が微かに聞こえた。
私は歩みを止めず、心の中で体操のテンポに足を合わせてみる。

再び国道に戻ると、車の数が少しだけ増えた。
信号待ちで立ち止まる。
顔見知りなのか、車の窓から手を振る人がいる。
ほかには、買い物袋を抱えた老婦人が歩いていた。
すれ違いざま、小さな声で「おはようございます」と言われる。
私も礼を返す。
旅先での短い会話は、いつも少し照れくさい。

南稚内駅へと続く道は、緩やかな坂になっている。
上り坂を歩くと、心地よい疲労が足にたまるのを感じる。
背中には薄く汗がにじむ。
気温は八度ほど。
風があれば、一気に冷えるだろう。
それでも、坂を上るたびに視界が広がっていくのが嬉しい。
遠くに南稚内駅の建物が見えてきた。

駅へ近づくと、周辺の町並みが少し賑やかになる。
自転車に乗った高校生が数人、歓声をあげながら駅前を通り過ぎた。
彼らの声は元気が良くて、春の到来を感じさせるものだった。
私は駅前のベンチに腰掛けて、ひと呼吸おいた。
手袋を外し、指先で少し空気の冷たさを確かめる。
手のひらも足も、歩き続けたせいか、ぽかぽかと温まっている。

南稚内駅の小さな駅舎は、どこか素朴で、使い込まれた雰囲気がある。
駅前にはタクシーが一台待機していた。
タクシー運転手は窓を少しだけ開けて、ラジオを聞いているようだ。
私はその様子を横目に、改札の方へと歩みを進めた。

駅舎の中は静かだった。
発車時刻までに時間があるらしく、待合室には数人しかいない。
壁に貼られた時刻表を眺める。
稚内から南稚内まで、ほんの数分の距離を、歩いて味わうと、地元の空気が濃く感じられる。
旅先での短い徒歩移動。
足裏には、町の冷たさと暖かさが交互に残っていた。

ゴール手前の気配
ゴール手前の気配

外へ出ると、風が少しだけ強まってきた。
帽子のつばを押さえ、深呼吸をする。
宗谷の町の静かな朝。
駅から駅へ、歩いてみるだけで感じることがいくつもあった。
潮の香り、薪のにおい、舗道の冷たさ、町の人々の声。
そのすべてが、旅の記憶に静かに刻まれる。

この道を再び歩く時、今日感じた温度や音やにおいが、きっと思い出されるだろう。
旅の終わりに、私は駅のベンチでしばらく目を閉じた。
町の息遣いを、静かに胸に刻みながら。

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