勇知⇒兜沼_徒歩78分_長い午後の影

※この記録はAIが自動生成した徒歩旅です。

宗谷線・勇知駅。
六月の午前八時過ぎ、ホームに立つと、ひんやりとした空気が頬を撫でた。
汽車を降りたのは私ひとりだけ。
線路の向こうはまだ薄曇りで、海からの湿った風が時折草むらを揺らしている。
駅舎の小さな窓に、遠く利尻の山影が映っていた。
宗谷の朝は静かだ。
スニーカーの底に伝わるコンクリートの冷たさに一瞬身震いし、しばらくホームに立ち尽くす。
辺りには甘い草の匂いが混ざる。
駅前の道標を眺め、歩き出した。

アスファルト道を北へ。
兜沼まで、約六キロ弱の道のり。
北海道の郊外は道がほぼ真っ直ぐで、左右には防風林と畑が広がっている。
歩き始めて十分ほど、足音だけが響く。
軽い朝露で路面が少し湿っているのか、靴裏が時折キュッと鳴る。
空気は冷たいが、動き始めるとじわじわと体が温まり、額にうっすら汗が滲む。
道沿いのポプラは新緑で、その葉が風に揺れて朝の日差しをちらちらと反射する。

歩き始めの風景
歩き始めの風景

途中、農家の軽トラックがゆっくり近づいてきて、私の横を通る時、窓越しに運転席の年配男性が軽く会釈してくれた。
北海道らしい、無駄のない気遣い。
トラックが遠ざかると、また静けさが戻る。
遠くでカッコウが二度鳴いた。
時折、畑から土の匂いが強くなる。
育ち始めたジャガイモの葉が青々としている。

三十分ほど歩いたところで、左手に小さな用水路が現れる。
水は澄んでいて、底の砂利が朝日に光る。
そばの草むらではキジが一羽、じっと何かを見つめている。
私が足を止めると、キジは警戒して遠ざかった。
用水路の水音が小さく耳をくすぐる。
少し腰を下ろしてペットボトルの水を飲む。
周囲は野鳥の声と、遠くの牛舎から漏れる牛の鳴き声だけ。
そういえば、道沿いには時折ガマの穂が並び、湿地の気配を感じる。

再び歩き始める。
靴底が砂利混じりの路肩を踏むたび、ごつごつとした感触が伝わってくる。
温度は昼に向けて少し上がり、薄曇りの空が明るさを増す。
北風はまだ冷たく、手をポケットに入れて歩いた。
左右に広がる畑には、広大な空が被さる。
宗谷の大地は、歩いていると時間の感覚が曖昧になる。
目の前の道がずっと続いているような錯覚に陥る。

道端に、色褪せた小さな祠が立っているのを見つけた。
屋根の下には古い紙垂。
足を止めて眺めると、誰かが新しい花を供えていた。
地元の人に守られてきた場所なのだろう。
祠の前で、ふっと風が吹き抜け、草花の香りが強まる。
ここで一息、深呼吸。
空気が肺いっぱいに広がり、少し眠気も覚えた。

道すがらの一景
道すがらの一景

そうしてまた歩く。
道はややカーブし、遠くに兜沼の森が見えてくる。
木々の色が濃くなり、沼の気配が近づく。
足元の砂利がしだいに湿地の泥に変わる。
靴底がぬかるみに沈み込み、冷たい感触が伝わる。
沼地から立ち上る湿った匂いは、北海道らしい野生の香りだ。

前方から、青いジャンパーを着た女性が犬連れで歩いてきた。
すれ違いざまに「おはようございます」と声をかけられる。
犬は白く、くるくるした尻尾を振りながら、私の靴をくんくん嗅いでいた。
「兜沼までですか」と尋ねられ、「はい」と答えると「この季節、湿地の花がきれいですよ」と教えてくれた。
たしかに、道端でアヤメらしき紫色の花が咲き始めている。
犬と女性は森のほうへ消えていった。

兜沼駅が近づくにつれ、鳥の声が増える。
湿地帯の葦原では、オオヨシキリが甲高く鳴いている。
沼に面した細道に入ると、足裏に柔らかな草が絡みつく。
少し湿った草の冷たさが心地良い。
太陽が雲の切れ目から顔を出し、地面に長い影を落とした。
駅舎に続く短い坂道を上る。
目の前に、木造の小さな駅舎が見えてきた。
兜沼駅だ。

駅前はひっそりしていて、バス停も無人。
駅舎の壁には、古い時刻表が貼られていた。
風でページが少しめくれている。
ベンチに腰掛けて、歩き切った足を休める。
靴を脱ぐと、足先が少し痺れている。
冷たい湿地を踏み越えた感覚が、まだ残っている。
静かな午後、沼のほとりには誰もいない。
鳥の声だけが響く。

ゴール手前の気配
ゴール手前の気配

兜沼を眺めていると、遠くで水鳥が静かに泳いでいるのが見えた。
湖面は穏やかだ。
宗谷の旅は、どこまでも静かで、空気が澄んでいる。
小さな駅、長い道。
足裏の疲れと、草むらの匂いと、ひんやりした朝の風が、今日の記憶に残った。

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