※この記録はAIが自動生成した徒歩旅です。
音威子府駅を出発したのは、朝の八時半。
初夏の空はまだ低い雲が流れ、遠くの山々を霞ませていた。
駅舎の古びた板張りが、朝露に濡れて黒く光っている。
改札を抜けて外に出ると、ひんやりした空気が顔に触れた。
道北の朝は、六月でも油断できない。
首元に巻いた薄いマフラーの温かさがありがたかった。
駅前の広場には、まだ人気がない。
コンクリートの歩道に、昨日からの雨の名残が小さな水たまりを作っている。
靴の底に、湿った地面の感触が伝わる。
歩き始めると、音威子府川の流れがすぐ近くで響いていた。
水量の多い初夏の川は、時おり小石を弾く音や、岸の葦が揺れるさやさやした音に混じって、どこか頼もしい。
国道40号を北へと歩き出す。
車はまだまばらだ。
遠くから近づいてくるエンジン音が、道の両脇の樹木に反響して、思ったより早く過ぎ去ってゆく。
右手に並ぶ民家の庭からは、味噌や炊きたてのご飯のような、どこか懐かしい匂いが漂ってくる。
窓から湯気が立ちのぼるのを横目に、地元の人々の朝の営みに触れる。
しばらく歩くと、舗道の脇に小さなバス停が現れる。
ベンチの上には、まだ夜露で濡れた新聞が一部置かれていた。
ベンチに腰かけ、すこしだけ足を休める。
湿った木材の匂いが、思いのほか鼻先をくすぐった。
足裏がほんのり冷えている。
リュックの中に入れておいた温かいお茶を少し飲み、息をつく。
再び歩き出すと、国道の左右に広がる畑が見えてきた。
何を育てているのかはよく分からなかったが、若い葉が規則正しく並んでいる。
土からの匂い、微かに堆肥の匂いも混じる。
足元のアスファルトは次第に乾き、歩きやすくなってきた。
ときどき、路肩に咲く小さな花に目をやる。
名も知らぬ白い花が、朝日を受けて揺れている。
しばらくして、向こうから自転車に乗った少年がやってきた。
濃紺の制服に赤いランドセル。
おそらく地元の小学生だろう。
こちらに会釈をして、ペダルを漕ぎながら通りすぎていった。
自転車のタイヤが砂利をはじく音が、しばらく耳に残った。
歩を進めるごとに、朝の寒さはやわらぎ、ゆるやかに気温が上がっていく。
日差しが差してきた。
頬や首筋に光があたり、ほんのり熱を感じる。
ふと、田んぼの中に白鷺が一羽、たたずんでいるのを見つけた。
そっと立ち止まり、しばらく眺める。
静けさのなかで、鳥がじっと水面を見つめている。
その白さが、緑濃い水田に映えていた。
川沿いの道に入ると、風が少し強くなる。
音威子府川の水面が、きらきらと光を反射する。
風に乗って、湿った草の匂いが流れてきた。
足元の道は、土がむき出しになっているところもある。
コンクリートが切れ、柔らかな土の感触に変わった。
靴底を通して、ほんのり温かい土のぬくもりが伝わる。
途中、小さな橋を渡る。
下を流れる水の音が、すぐ足元でざわめいている。
橋のたもとに猫が一匹、じっとこちらを見ていた。
黒と白の模様が、どこかくたびれた風情を醸し出している。
声をかけると、ひと鳴きして姿を消した。
道端に腰かけ、持ってきたパンをかじる。
かすかにバターの香りが立つ。
食事をとりながら、ぼんやりと空を見上げる。
雲はもうすっかり高くなり、青空が広がっている。
遠くでカラスとトビが鳴き交わす。
蝉の声はまだ聞こえない。
北海道の夏は、もう少し先なのだろう。
歩きつづけるうち、国道から少しだけ離れた脇道に入った。
道はやや細くなり、両側に葦やヨシが生い茂る。
風が吹くたび、ざわざわと音を立てる。
足元には、ふかふかの落ち葉や小枝が混じっている。
歩くたび、湿った音が響く。
時折、野鳥の羽ばたきが低く聞こえる。
やがて前方に咲来の駅舎の屋根が、小さく見えてきた。
線路を渡ると、かすかに金属の匂いが鼻をかすめる。
午前十時前、予定より少し早く咲来駅に到着した。
無人駅の静けさは、音威子府よりもさらに深い。
ベンチに腰を下ろし、冷えた足をさすりながら深呼吸をする。
歩き通した足裏には、確かな疲労感と心地よい充実が残る。
遠くから、川の流れがずっと聞こえている。
人の気配の少ない静かな朝。
歩いてきた道のりを思い返し、しばし目を閉じた。
空気は澄み、耳の奥に、北海道の夏の始まりを告げるような風の音が残った。









