※この記録はAIが自動生成した徒歩旅です。
豊富駅に降り立った朝、駅舎の外に出ると、5月も終わりかけの北海道らしい、まだ冬の名残をほんのりと残す冷たい風が、鼻先をかすめていった。
宗谷本線の無人のホームは静まりかえっていて、耳を澄ますと、遠くでカラスの鳴く声と、牛舎の方から漂ってくる牧草の匂いが混じって感じられた。
私は軽く背伸びし、肩の力を抜いて、これから辿る9キロあまりの道のりに思いを馳せた。
豊富の町並みを背に歩き出すと、すぐに住宅地の切れ目が現れ、景色が広々とした草原へと変わる。
舗装された道路は、朝露が乾ききらず、靴の底からひんやりとした感触が伝わる。
歩くたびに小さく擦れる音が耳に残る。
空は淡い水色。
雲がのんびり流れていく。
風は時おり強くなり、ジャケットの裾をばたばたと揺らした。
道端には、タンポポとシロツメクサが点々と咲いている。
北海道の道は本州の田舎道より幅が広く、車の通りは少ない。
時折、大きな作業車が脇を通り過ぎ、軽く手を挙げて会釈する運転手の姿を見かける。
人の気配はほとんどないのに、どこか人懐こい空気が漂っている。

20分ほど歩いたあたりで、ふと吹き抜ける風の中に、牧場由来の甘い、そして少し土臭い香りが強くなってきた。
遠くに小さな牛の群れが見え、子牛が親牛のあとについてのんびり移動している。
柵越しにこちらをじっと見るつぶらな瞳。
牛たちの息づかいまでは聞こえないが、背後に広がる大地の静けさと相まって、何とも穏やかな時間が流れていた。
道は直線が多く、遠くまで見通せる。
ふと立ち止まり、足元に目をやると、アスファルトのひび割れから草が顔を出している。
踏みしめる度に、乾いた小石の感触が伝わり、その感覚を味わいながら一歩一歩進む。
気がつくと背中にじんわり汗がにじんでいた。
気温は15度ほどだろうか。
歩き始めは寒かったが、今は歩くリズムに身体が温まって、心地よい。
途中、白樺の並木が小川のほとりに続いている場所にさしかかった。
川面は風を受けてきらきらと光り、しゃらしゃらと水音がかすかに聞こえた。
川沿いにしばらく歩くと、小さな橋がある。
橋の下では、エゾアカガエルだろうか、低く鳴く声が響き、川岸には黄色いリュウキンカが咲いていた。
私は橋の上に立ち、深呼吸をしてみた。
冷たくも澄んだ空気が鼻から肺へと流れ込む。
春がようやくやってきたことを実感する瞬間だった。
再び道に戻ると、遠くに赤い屋根の納屋が見え、近づくにつれ、農作業をする人の姿が現れた。
腰をかがめて苗を植えている。
私は軽く帽子をとって挨拶すると、年配の男性が「今日は歩きかい?」と声をかけてきた。
はい、と答えると、「いやあ、いい季節になったな。
熊には気をつけなよ」と笑いながら言う。
熊が出ることは滅多にないが、この一帯には昔から棲みついているらしい。
少しだけ背筋を伸ばし、気を引き締めて歩を進める。
やがて道の両側に畑が広がる。
耕されたばかりの黒土がむき出しで、春の湿った土の匂いがはっきりと立ちのぼる。
足裏には土から発する微かな温かさが伝わるようだ。
その一角をカラスが二羽、器用に歩きながら何かをついばんでいる。
人の気配はないが、生き物たちはそれぞれの時間をゆっくりと進めている。

旅の半ば、30分ほど歩くと、道端に一本の自動販売機がぽつんと立っている。
周囲には民家もなにもない。
ただ、機械の中身が少し光って見える。
持参した水筒がぬるくなっていたので、缶コーヒーを一つ買い、歩道の縁に腰かけてひと息つく。
飲み口から立ち上る甘い香りが、牧草の匂いとまざる。
缶の冷たさが手に心地よかった。
再び歩き出すと、しばらくはほとんどまっすぐな道が続く。
遠くにちらちら見えるのは、低い山並みと広がる牧草地。
空にはトビが大きく円を描く。
道の端を歩きながら、ふと、遠くで汽笛の音が聞こえる気がした。
宗谷本線を走るディーゼル車両かもしれない。
静寂の中に、ひときわ響いて心が弾む。
道路脇の水たまりに、空の雲が写っていた。
風が吹くと水面が揺れ、雲の形もゆっくり崩れる。
私は屈んでその景色を眺め、幼い頃、近所の田んぼの用水路を覗き込んで遊んだことを思い出した。
見知らぬ土地でも、どこかに懐かしさを感じる瞬間がある。
終盤、下沼の集落が近づくにつれ、再び人家がぽつぽつと現れる。
畑仕事を終えたらしい女性が自転車で追い越していく。
すれ違いざまに小さく会釈し、「お疲れさま」と声をかけてくれる。
私は「こんにちは」と返し、その背を見送る。
人とのやりとりが少ない道中だからこそ、こんな一言が胸に残る。
やがて、宗谷線の線路沿いに小さな踏切が現れた。
線路はどこまでも真っ直ぐに伸びている。
下沼駅は、無人駅らしい簡素な造りで、ホームもこぢんまりとしている。
駅舎のベンチに腰を下ろし、足裏に残る心地よい疲労感を味わう。
耳を澄ますと、遠くでまたカラスが鳴いている。

風は少し冷たく、辺りは静かだ。
旅の終わりに、もう一度深呼吸をする。
湿った土の匂い、牧草のかすかな甘さ、春と初夏の間の澄んだ空気。
こうして歩いた記憶は、心のどこかに静かに残り続ける気がした。
下沼駅前の道に立ち、私はふと振り返る。
歩いてきた道のりは、どこまでも広く、静かだった。
豊富から下沼まで。
何もないようでいて、実はたくさんの気配に満ちた時間だった。


















